2017年12月27日水曜日

自主講座「水をめぐる公共事業の現状とこれから」報告




平成29年度 市民がつくる自主講座(小金井市公民館主催、はけの自然と文化をまもる会企画)の第2回、「水をめぐる公共事業の現状とこれから」と題して、水ジャーナリストでアクアスフィア・水教育研究所所長の橋本淳司さんの講演会を12月10日(日)14時〜16時、貫井北公民館学習室ABで開催しました。
水をめぐる公共事業について熱く、とても楽しそうに話してくださる橋本さん。聴講者からのアンケートの回答には「楽しかった」「橋本さんのお話は核心をついていてとても興味深かった」「内容に密度があり時間が足りなかった」などの記入があり、関心の高い市民の参加が多い印象でした。





以下は講演会要旨です。


1 老朽化が進む水インフラ

・全国に張り巡らされた水道管の総延長66万キロ中、更新が必要なのは12・1%(2012年時点)。更新率は年間0・76%で全ての更新には130年以上かかる計算。土木学会の推計によると、「2040年までに水道事業を営む団体の91%に当たる1180団体が料金値上げを迫られる。小規模自治体でとくに影響が大きく、料金が2倍以上に引き上げられるところもある」

・下水管の総延長は約47万キロ。うち下水から発生する硫化水素の影響で腐食リスクが大きく、定期点検を義務付けられた管は約5000キロ。下水道管の老朽化に起因する道路陥没事故は年間3000件超。

・インフラをいかに維持するかという視点だけでは、根本的な解決にならない。人口減少期におけるまちあり方の見据えたインフラ整備がなくてはならない。




2 都市の成長と土地、住宅、インフラ

・都市は「豊かな生活」をしたいという目的を実現するための「手段」と考えることができる。具体的に言えば、市場のようなモノやサービスを交換する機能、 政府のような集まったモノやカネを再配分する機能をもっていると考えることができ、さらに「豊かさ」の定義や交換や再分配の方法は多様であってよい。

・戦後の日本の都市は経済成長を目的としていた。このとき大きな役割を担ったのが土地と住宅。経済成長のためには市場に多くの人に参加してもらう必要があるが、一般の市民が借金をして土地や住宅を購入し、住宅ローンを返済することで経済市場に参加し続けることになった。

・インフラストラクチャーとは「下支えするもの」のことで、福祉の向上と経済活動に必要な公共施設。道路、上下水道、橋などの基盤整備が進み、都市の価値は上がり、地価が上昇する。たとえば、道路、駅、高速道路の入り口、大規模ビル、複合大型商業施設、遊園地などがつくられると周辺の地価が上がる。しかし、土地あまりの時代になると、インフラによる経済効果は限定的になる。



3 人口減少時代の都市のスポンジ化とインフラ整備を考える

・人口減少社会の到来。少子高齢化が進み、土地の需要が減る。都市部では需要が横ばいになり不動産価格は緩やかに低下。郊外や地方では人口減少が激しくなり、空き家が増え、不動産価格は大きく下落。未利用地化した土地(スポンジ化)がまだら状に増加。市街地、市街化調整区域、農地、いずれの場所でも未利用地が増える。また、固定資産税に比した収益を上げることが難しくなる。


東京都の人口は2015年をピークに減少に転じた。2015年の東京都の人口は1335万人で、生産年齢の割合は66%、高齢者の割合は23%。2040年には、人口が1231万人、生産年齢の割合は58%、高齢者の割合は53%と予想される。

・都市のなかにまだら状に空き地が発生してくることを考えると、「小さな規模でいかに土地利用を混在させるか」「小さくバラバラの土地の総和によってつくられる都市施設」「スポンジ化する都市空間に小さな事業を埋めこんでいくために公共と民間の強調」が大切になる。広がった町を1つに集約化していくという考えというよりは、多様なライフスタイルを実現できる成熟した町を作っていくという考えが重要。



4 水循環を考えたまちづくり

・都市部への人口の集中、産業構造の変化、地球温暖化に伴う気候変動等の様々な要因が水循環に変化を生じさせたことにより。渇水、洪水、水質汚濁、生態系への影響等様々な問題が顕著となっている。




水循環基本法の基本理念
1)水循環の重要性
 水については、水循環の過程において、地球上の生命を育み、国民生活及び産業活動に重要な役割を果たしていることに鑑み、健全な水循環の維持又は回復のための取組が積極的に推進されなければならないこと
2)水の公共性
 水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものであることに鑑み、水については、その適正な利用が行われるとともに、全ての国民がその恵沢を将来にわたって享受できることが確保されなければならないこと
3)健全な水循環への配慮
 水の利用に当たっては、水循環に及ぼす影響が回避され又は最小となり、健全な水循環が維持されるよう配慮されなければならないこと
4)流域の総合的管理
 水は、水循環の過程において生じた事象がその後の過程においても影響を及ぼすものであることに鑑み、流域に係る水循環について、流域として総合的かつ一体的に管理されなければならないこと
5)水循環に関する国際的協調
 健全な水循環の維持又は回復が人類共通の課題であることに鑑み、水循環に関する取組の推進は、国際的協調の下に行われなければならないこと

生活のなかの水循環の健全化に当たっては、身近な水がどこから来て、どこへ流れていくかを知る必要がある。地下水保全のためには自治体内の雨水浸透や節水だけでなく、流域住民が連携して水源域の保全活動を行うことが重要だ。

・スポンジ化して小規模で未活用な土地を、グリーンインフラ設置に当てることで、保水、洪水の軽減、温暖化の軽減を図ることができる。

5 市民参加のインフラ整備を考える

・多様な住民で集まり、町をどうしていくかを考える必要がある。行政が「こう決まりました」と住民に説明するスタイルではなく、人口動態、土地利用状況、財政など客観的な情報を、行政、住民で共有しながら一体となって考えていく必要がある。

・岩手県矢巾町の水道サポーターのしくみ。特徴は「発言しないマジョリティ」の声を反映させること。住民参加は今後の自治体にとってとても重要なキーワードだが、ともするとそれ自体が目的化していることが多く、議会対策になっていることもある。



・水道サポーターは矢巾町の現状のデータを分析し、将来を考えたうえで、残すインフラ、失くすインフラを決めている。会議では、「いまから多少の水道料金が上がるのはしかたない」「冷蔵庫の買い替えにそなえて貯金しておくのと似ている」という声が上がる。次世代の負担を軽減するために、現在から「保険的投資」を行っていこうという意見。水道事業の状況を丁寧に学び、具体的なデータを見ながら中長期的視点で検討した結果、市民は未来志向の決断をしている。



付記:さらなる学びをご希望の方は、「橋本淳司の「水」ニュース・レポート」のご購読をお勧めします。
毎週水曜日、無料で発行しております。アクアスフィア・水教育研究所のHPよりお申し込みください。http://www.aqua-sphere.net/newsletter.html

講演要旨、以上。

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人口減少という避けられない未来を前提にすると、「どうやってインフラを維持していくか」という議論ではなく、そもそも何のためにインフラがあるのかという原点に立ち返って考えることが必要。高度成長期に整備された道路や橋梁、水道管などが次々更新の時期を迎え、将来支える人工が減ることが明らかな今こそ、広い視点でインフラを考えていきたいと思いました。

フラワーアレンジメント用のオアシスを「グリーンインフラ」、オアシスにアルミ箔を巻いたものを「グレーインフラ(水を土に戻す仕組みのない建造物)」に見立てたデモンストレーションなど、前回の講座をふまえたお話はとても分かりやすく、親しみやすく感じました。

「グレーインフラを否定するのではなく、グリーンインフラはグレーインフラを補うもの、と主張するのがよい」
「行政と闘っている場合ではない。協調していく必要がある」など、市民参加のインフラ整備を考えるうえでの心得も伺えて参考になりました。

参加者は20代~70代と幅広く、中には水道の専門家の方もいて、質疑応答も活発に行なわれました。ここに集まったみなさんは間違いなく「意識高い系」!ですが、橋本さんいわく、ワークショップなどでは意識低い系の人(サイレントマジョリティ)を集め、まちに興味がわく取り組みをして、将来のまちの姿を考える市民を増やしていくことが大事、という話には大いにうなずきました。

固いテーマにも関わらず、楽しそうに話をする橋本さんから水が好きな気持ちが伝わってきて、こちらも楽しくなってきました。誰にでも身近な水から、まちづくりを考えるヒントをもらった講座でした。今後、市民だけでなく、市職員や市長、市議会議員など、公的な立場の方とも一緒に考える場が必要だと思いました。





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